静岡を巣立つ球児たち2013番外編~室内椋耶編・下
オフシーズン企画として始まった「静岡を巣立つ球児たち」。今年も編集部Hが、卒業後も野球を続けることが決まっている高校3年生たちに会いに行きます。
前回に引き続き、室内椋耶(富士学苑3年)編です。 「静岡を巣立つ球児たち2013番外編~室内椋耶編・上」はコチラ!
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★立ちはだかる東海大甲府
東海大甲府との因縁は続き、2年秋にも3年春にも山梨県大会で敗北した。「渡邉諒(東海大甲府・北海道日本ハム1位)にはやられたってかんじですね。打撃もそうですけど、守備でもやられましたし。自分たちのチームが一、二塁で、打者がレフト線にタイムリーを打ったんですよ。二塁走者が還って、一塁走者も一気にホーム行こうとしたんですけど、渡邉がカットに入って、ドンピシャの送球が返ってきてアウト。やっぱり流れがあるじゃないですか」。高橋周平(現中日)には圧倒されたが、渡邉のプレーには何度も歯ぎしりした。
ただ、室内も逸材たちのプレーをぼんやり見ていただけではない。練習からプレーを真剣に見て、相手の特徴や自分に足りないものを確認していた。「みんな渡邉の打撃に注目するんですけど、試合前のキャッチボールやシートノックを見てても、必ず強い送球で胸に投げてる。そこはさすがだなって思いましたね」。室内もキャッチボールから相手の胸に正確に投げることを心がけ、スローイングには自信を持っている。敗戦を悔しかった、相手が強かったでは終わらせずに、自分の成長へのヒントにし続けた。
2年秋からは主将を務め、自分のことだけでなく、チーム全体を引っ張ることにも腐心した。チームが揺れることも起きたが、コーチや3年生たちと声を掛け合って踏ん張った。チーム事情で、外野手と三塁手を兼任しながら迎えた最後の夏は、あと1つ勝てば東海大甲府と対戦というところで敗退。目の前の試合を勝たなければいけなかったが、やはり東海大甲府を意識してしまったところもあったという。
★神奈川リーグの強豪・関東学院大へ
大学で野球を続けることはずっと意識していたという室内。上野監督に大学のことを相談した時に、勧められたのが神奈川リーグの強豪・関東学院大だった。夏休みの練習会に参加して、その厳しい雰囲気の中でしっかりと野球をしているところに惹かれた。入学を決めたが、「意識の高い人が集まってくるので、競争も激しいと思うから頑張らないといけない」と進路決定に安心する間もなく、大学野球への準備に励んだ。 富士学苑に入学してから1年の秋までは投手に専念していた。それ以降は野手としての出場が増えたが、練習試合の2試合目ではマウンドに登ることもあった。しかし、大学では野手一本で勝負する。「外野手として行くからには打撃が良くないと使ってもらえないと思うんですよ。木のバットでどれだけミートできるかが課題です。大学ではピッチャーのレベルも上がるし、金属じゃないから飛距離が出るわけじゃない。打撃で生き残っていくためには、打率を残せる打者になっていきたいです」。木のバットにも少しずつ慣れてきたそう。ただ、山梨の富士学苑では雪が降っていて、練習は室内練習場に限られている。後輩たちも走る練習を中心に行っているため、前から来る球を打てていないと少し不安げな顔をしたが、年末年始の練習で感触は掴めてきたそうだ。
★大学野球、そして将来
将来の夢を尋ねると、「今のままだったら到底無理なんですけど…」と控えめに前置きしながら、「上の野球を続けられるならば続けたいですね、やっぱり。今までお世話になった人たちに恩返しもまだできていないので」と語る。進学する関東学院大は神奈川ということもあり、交流戦などで少年野球時代の先輩で地元のスターでもある野村亮介が在籍する三菱重工横浜と対戦する機会もある。「そういうところで亮介くんと対戦できたらすごいですよね」と目を輝かせた。
まずは大学で通用する体作りに取り組むが、「1年生から試合に出るって気持ちでやっていかないと、すぐ終わってしまうと思うので」、早期のリーグ戦デビューも目指す。それは室内のプレーを楽しみに、頻繁に山梨に応援に来てくれた祖父や祖母、家族のためでもある。神奈川の方が応援に来やすくなる分、活躍するところを早く見せたいと気合を入れる。
★室内椋耶からのメッセージ 最後に現役球児へのメッセージを聞いた。「一日一日を大切に過ごして、後悔だけはしないように。反省はするんですけど、あとあと後悔はしないように」。“後悔はしないように”と繰り返した室内。富士学苑に入学した時には、投手へのこだわりを持っていたが、「最後の方はフォームを崩したり、自分でわからなくなったりしてたので、最終的にはピッチャーをやってなかったですけど、後悔はしてません。富士学苑に入って本当によかったと思ってるんで」と自らも悔いなく高校野球をやり抜いた。
充実した高校生活を送ることができたのは、富士学苑に入学するきっかけとなった上野監督のおかげでもある。共に寮で生活し、選手たちに愛情を持って接してくれた上野監督には尊敬の念も抱く。「掃除も洗濯も全部自分たちでやって、親のありがたみもわかりました。監督には言葉遣いとか一つの言動に責任を持つところまで教えてもらった。人間的に成長できたと思います」。
応援し続けてくれた家族、野球も生活も導いてくれた上野監督、お世話になった様々な人たちに「喜んでもらいたい」という気持ちを原動力に、野球小僧・室内は突っ走り続ける。
■室内椋耶[むろうち・りょうや]
外野手/富士学苑3年/180cm83kg/右投左打
富士シニアではエースとして活躍し、南関東選抜として台湾遠征も経験。山梨・富士学苑進学後は1年春から試合出場を重ねた。大学ではパンチ力ある打撃を武器に、さらなる成長を期す。
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室内とは中学時代からの知り合いだという編集部・栗山。今回の取材が実現したのも2人の交流によってでした。 「室内君に初めて会ったの彼が中3の春。清水庵原球場で当時・東海大の菅野智之(現巨人)の投球を目を輝かせながら見ていた姿が印象的でした。あれから3年。体も一回り、いや二回りくらい大きくなったでしょうか。1年春からベンチ入りし、順調に高校生活をスタート。そこから、見にいく機会は少なかったのですが、ずっと動向を気にしていました。そして、3年夏の敗戦直後、こんなメールをもらいました。『自分達の野球さえできれば甲子園は見えていたので、悔しさはありますが、悔いはありません!』。室内君らしい、芯のある一文に感動したことを覚えています。どこまでも追いかけたい。そう思わせる男・室内椋耶。今度は横浜スタジアムや神宮で会えることを楽しみにしています(栗山)」。編集部はまだまだ室内を追いかけます!(編集部H)
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