静岡を巣立つ球児たち2016~佐藤蓮編・下
オフシーズン企画「静岡を巣立つ球児たち」。今年も「静岡高校野球」編集部が、卒業後も野球を続けることが決まっている高校3年生たちに会いに行きます。
前回に引き続き、佐藤蓮(飛龍3年)編です。 「静岡を巣立つ球児たち2016~佐藤蓮編・上」はコチラ!
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★3年夏は野手に専念
2年夏に140キロをマークした佐藤だったが、ムラのある投球は改善されていなかった。
秋の公式戦は安定感のある杉山京吾が中心で投げた。
その冬、佐藤はこれまでのフォームを一度リセットした。濱野洋監督とともに、無駄のないフォーム作りに取り組んだ。背中に大きく入っていたテークバックをコンパクトにして、常の一定の位置で球を離せる練習を繰り返し行った。
迎えた春、練習試合の最初の相手は常葉菊川だった。
7回から登板した佐藤は2イニングで5四死球を与えて5失点。試合後は「全然ダメです」とコメントし、俯いたまま、バスに乗り込んだ。
「あの時は、冬にいろいろなことをやって、自信をもって入っていったんです。でも、余分なことを考えてしまって…。ストライクをいれなきゃとか、フォアボールになったらどうしようとか、そんなことばっかり頭にありました。それよりも、フォアボールになってもいいから、やってきたことを出すべきでした」
この試合の反省を生かし、続く関西遠征では報徳学園(兵庫)、東大阪柏原(大阪)相手に好投を見せる。しかし、その状態を維持できなかった。
春の東部大会、初戦で三島南と対戦。3点リードの6回からマウンドに上がるも、4四死球に加え小技で崩されて5失点。この大量失点が響き、チームは初戦敗退を喫した。 その後、投手の練習をこなしていたものの、夏の大会が近づいた6月になり、最後の夏は野手としてチームに貢献すると決断する。
「最後は自分じゃなくて、チームじゃないですか。チームが勝つためにどうするかって考えた時に、野手の方が貢献できると思いました」
打球を飛ばす力はチームで誰にも負けない。佐藤は投手への思いを封印し、一塁手で夏を迎えた。
飛龍は初戦、菊川南陵相手に7対0で快勝。続く、加藤学園との2回戦では、4回にレフトスタンドへ豪快な一発を放つ。
「初戦は緊張感はありましたが、2回戦はガンガンいこうと思って、思い切り振りました」
ところが、3回戦では浜松学院の手嶋航平の緩い変化球に翻弄された。佐藤は2打数無安打。チームは0対4で敗れた。
「不完全燃焼で終わったし、納得はしていません」
佐藤は悔しさを滲ませながら、夏を振り返った。
★170キロを投げて五輪を目指す!
夏が終わり、進路をどうすべきか、佐藤は悩んだ。もともと、高校に入学した時はプロ入りを目標にしていた。2年冬から3年夏かけ、プロのスカウトも注目してくれた。
だが、佐藤は大学進学という道を選ぶ。
「正直、何でもいいからプロに行きたいっていう気持ちはありましたが、今のままじゃ無理だって思いました」
そんな佐藤の気持ちを汲み取り、濱野監督が提案したのが上武大への進学だった。
上武大といえば、昨年は春秋ともに全国ベスト4入りを果たした強豪だ。全国各地から上を目指す選手が集まり、そこで勝ち抜くためには人間力も要求される。
飛龍出身では現在、小豆澤誠がレギュラーを獲得している。しかし、元気が良く、いい意味で馬鹿になれる小豆澤と佐藤はタイプが正反対。濱野監督は「お前、そこに飛び込む勇気があるのか?」と投げかけた。
「行かせて下さい。厳しい環境でやらせて下さい」
その佐藤の返事に、濱野監督は大きな成長を感じた。
夏休みは誰から指示されるわけでもなく、自ら考えながら、練習で追い込んだ。そして、8月の上武大のセレクションでは、自己最速となる144キロをマークする。
「あとから聞いて、そんなに出ているんだってビックリしました」
上武大・谷口英規監督からは、これ以上ない言葉をもらった。
「冗談かもしれないですけど、『俺と一緒に160キロ、いや170キロ投げるぞ』って。それは本当に嬉しかったです」
4年後、当然プロを目指す中、2020年の東京オリンピックも狙っているという。この3年間で160キロ以上を連発するレベルまで達すれば、夢は現実に変わる。
★佐藤蓮からのメッセージ
最後に現役球児へのメッセージを聞いた。
「自分で考えて練習することの大切さをこの3年間で気づかされました。自分の悪いところを探して研究して、どうしたら上手くなるかを自主練習するのが、一番自分のためになります。そのことに、もっと早く気づいていれば良かったなと…。高校生はそこを意識して取り組んだら、絶対に伸びると思います」
佐藤は3年夏が終わってから、トレーニングや栄養学の本を読み漁り、プランを立てながら、練習するようになったという。苦しい練習の中でも、楽しさも覚えるようにもなった。今の気持ちを忘れずに「未完の大器」から脱却し、再び世界を相手に戦う日を待ちたい。
濱野洋監督からの贈る言葉 2年生までは、自分の持っているポテンシャルの高さに気づけていませんでした。欲がないというか…。それが、「このままではダメなんだ」と、3年春くらいから、行動が変わりましたね。雨の日も風の日も、自主練習に黙々と取り組む姿がありました。本人的には不完全燃焼に終わった3年間だったかもしれませんが、最後になって、そこに気づけたことは大きいと思っています。谷口監督には「コイツを男にしてあげて下さい」と頼みました。4年後はドラフト上位で指名される選手になってほしいです。 |
■佐藤蓮[さとう・れん]投手/飛龍3年/188cm95Kg/右投右打
小学4年時に「長伏ヴィーナス」で野球を始める。中郷西中時代は「三島シニア」でプレー。3年時には全日本メンバーとして米国遠征を経験する。飛龍では1年秋からエース。3年夏は「7番ファースト」で出場する。最速144キロを誇る大型右腕としての期待が高く、上武大では投手で勝負する。
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佐藤を最初に取材したのは高校1年の夏前でした。それから2年間、試合を見たり、試合後に取材したりしてきましたが、意外にも、二人きりでじっくりと話したのは、今回が初めてでした。夏が終わってからのトレーニングの成果なのでしょう。会った瞬間に「ウワ~、デカいね~」と思わず口に出してしまうほど、現役時代よりも、体が出来上がっていました。高校での悔しさをバネに、大学ではきっとやってくれるはずです。次回は菊川南陵・叺田本気編、お楽しみに!
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